本を借りても返さないという人がいます。本というのは、図書館のラベルでも貼っていないかぎり、一体誰の本なのかわからなくなってしまうものだから、なのですね。そして、始めのうちは、「これは、○○さんから借りた本」という意識を持ってはいても、読み始めてしまうと、次第に初めから自分の本であったかのような錯覚に陥ってしまいます。そこが、「本は貸したら帰って来ない」と言われるゆえんなのでしょうね。ある著名な作家の方は、「本と知恵は貸すな」という座右の銘をまもっていらっしゃるそうです。なぜなら、先に述べたように、本と言うものは、「人から借りた」という認識がはっきりあるのは、「読み始める前まで」であって、いざ本を読み始め、その世界に没頭してしまうようになってしまったら、その本が本当は誰のだったか、すっかり忘れてしまうからなのです。本というものは、まさに不可思議なものですね。 こんなことがありました。自宅の車で友達4人をお送りしたことがあります。その翌日、私の所有ではない本が一冊、前部シートの下の床から出てきました。家族にも聞きましたが、誰のでもありません。前日にお送りした4人のうちの誰かだと思い、たずねてみました。誰かに思い当たる節があったと思われますか?いいえ、答えはNOでした。4人すべてに聞いて回りましたが、「そんな題名の本は知らない」という答えだったのです。おかしいなと思って、家族に聞きましたがやはり誰も心当たりはありません。すると、数日後、その4人の友人のうちの一人が「あの本は私のです」と申し出られた方がありました。何でも、人から借りていた本だったということです。人から借りていたという本を、すっかり忘れて「知らない」と言っていたことを考えると、大事な本はやはり貸さないほうがいいなと思いますね。